メルマガバックナンバーのコラムは、大前研一が自らが執筆・発行しているものではなく、

本講座の専属ライターにてお届けさせていただいております。

■━━━━━━━━━━━━━━━□
┃≪2万5000人以上が購読中!≫
┃最新の英語学習法&PEGL[ペグル]情報をお届け!
┃―――――――――――――――
┃週刊メールマガジン
┃「グローバルリーダーへの道」
┃2018/03/29 号
□━━━━━━━━━━━━━━━■

今号のメルマガは、ヤクルトがフィリピンに土着化した話です。
日本企業のグローバル進出がどれだけ難しいことなのか、皆さんも
ニュースや書籍で読んだことのある方もいらっしゃるかもしれません。
自分たちの商品を現地で売る「現地化」だけでは対応できないことが
あるのだと、書籍『新しいグローバルビジネスの教科書』(PHP新書)
では指摘しています。

日本人がフィリピンに行って「現地化」するというと、フィリピンで
英語を話し、フィリピン人と同じような振る舞いを想起するかもしれ
ません。しかし、土着化はさらに深くのめり込んで「フィリピン人に
なりきる」ことにほかなりません。現地の人と生活を共にし、現地の
人たちの表面的な活動だけではなく、価値観を学び、自分の生活すら
も再構築することが必要になってきます。

◆進出当初、集金に失敗し、フィリピン市場から撤退寸前に
追い込まれたヤクルト

日本と同じビジネスモデルを1970年代にフィリピンに持ち込んだ
ヤクルトは、フィリピンでの累積赤字が拡大してフィリピンで事業を
継続するのが困難になっていました。販売員、つまりヤクルトレディが
回収した代金を私的に流用してしまうなど、なんと「集金」という
初歩的な段階から失敗していました。単純な問題のように見えますが、
ヤクルトには当時、ローカルの現実と向き合うためのノウハウを持って
いませんでした。日本だと社員が職に困らず、毎月決まった日に一定額
の給与が入ってきて当たり前なので、回収した代金を自分のポケットに
入れてしまうことは考えにくいかもしれません。当時のフィリピンに
おいて、金銭感覚やルールを叩き込まれていない人たちは、仕事と生活の
財布を分ける習慣がありませんでした。日銭で生活しているフィリピンの
人たちの状況が想像できなかったのです。

実は、日本本社がフィリピンからの撤退を決断しようとしたとき、後に
同社の専務になる若かりし平野博勝氏が初めて海を渡り、フィリピン
法人に乗り込みました。そしてあっという間にその厳しい現状を立て
直した経緯があります。事業を立て直したポイントはビジネスの土着化
でした。

平野氏がヤクルトのビジネスを土着化する方法は例えば以下のような
ものでした。まず、一日分の商品を販売員に渡し、その都度、代金を
回収させて銀行に入金させ、入力したという証拠を持ってきた販売員に
だけ、翌日の商品を渡します。買った人から確実に集金し、集金した
お金を直ちに銀行に入金させることで、フィリピンでは当たり前だった
代金未回収が劇的に解消したといいます。

お金を貯める習慣のないフィリピンの販売員は、給与を渡すとすぐに
全部使ってしまいます。家に持ち帰った瞬間に旦那さんが働かなくなり
ます。しかし、フィリピンではそれは特別なことではないのだと言います。
そこで、平野氏はお金を貯めさせる仕組みを考えました。給与は現金で
渡すのではなく、販売員名義の銀行預金通帳に振り込むことにしたのです。

◆現地の人たちと同じものを飲んで、歌って、踊って、食べて土着化

売る方法だけを考えていても、永久に商売はできません。自ら、
ビジネスの外へ出て、現地コミュニティの中に入り込んでいくことで、
現地の人に共感を覚え、どのようなビジネスの仕組みを作っていける
かということを一所懸命に考えたのが平野氏でした。

意外にもフィリピンへ立て直しに派遣されたのは、本社で“はみ出し者”
と呼ばれていた人たちで、“国際派エリート”ではありませんでした。
当時のヤクルトのフィリピン法人は赤字だったので、現地の人と同じ
ような場所に住み、現地の人たちと寝食を共にするなどしました。

現地の従業員に「こんなやり方ではダメだ」と指摘すると、当然、不平
不満を並び立てて来ます。現地の従業員を説き伏せなければいけませんが、
そのときも「上から目線」では通用しません。いくら正論を述べた
ところで、人は動きません。相手の立場に立ち、相手の顔を立て、本人
たちをやる気にさせなければなりません。そのためにも相手の懐に飛び
込むべきだと、平野氏は指摘します。

平野氏が言うグローバル化の重要性は以下のようなものです。
(1)飲みニュケーションはコミュニケーション
フィリピンでのビジネスパートナーである華人は、いわゆる「闘酒」を
挑んでくる。
(2)現地人が食べる食べ物を何でも「うまい、うまい」とよく食べる
現地社員と現地の食べ物でヤシ酒を飲んだ、
(3)教養も武器になる
シンガポールでは英国人ビジネスパートナーと文学や歴史談義をした。

歌が歌える、酒が飲める、踊れるといった素養は、ビジネスとは
まったく関係のない分野です。しかしながら、言葉を使わないで
お互いの信頼性、相手に対する敬意、ビジネスを「一緒にやりたい」と
思わせる行動こそが最終的には重要です。

平野氏は、本格的な英語教育をまったく受けていないと言います。
しかも、フィリピンでも英語が通じない、タガログ語(フィリピンの
言語)の世界に飛び込みました。ほとんど言葉はわかりませんが、
必死で商売をしようとすると最低限のことは覚えると言います。
商品を売ろうということよりも現地の人と一緒に仕事し、自分たちの
ビジネスを土着化したいという考えさえあれば、言葉はあとから
ついてくるのだと言います。

ビジネススキームさえ成り立てば、相手もお金になるから興味を示す
はずです。いくら口が達者でも、“筋の悪いビジネス”には誰も寄り
付いてきません。立場を逆転して考えてみて、相手の立場になって
みればわかることですね。グローバル化の本質は、上記のような
泥臭い部分にあるのではないかというのが同書の著者の見方です。

いかがでしたでしょうか。
直接、商取引と関係ない対象との間でも、飲んで、歌って、踊って、
食べる――交流はつきものですね。皆さんが海外へ飛び込んだ時、
日本人であることを忘れ、現地の人になりきって、本当の意味で
現地に根付いたビジネスを行うのは好きですか。もしかするとそこが、
本当の意味でのグローバルビジネススキルが試される分岐点になるの
かもしれません。

◆ソース◆
=================================
『新しいグローバルビジネスの教科書』(PHP新書)
https://www.amazon.co.jp/dp/4569824994/
pp.127-135
=================================