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今号のメルマガでは、グローバル人材に求められる能力のうち「連帯する力」について書籍『世界で生きる力』(英治出版)から紹介します。

同書によると、「連帯する力」とは人間関係を構築する力です。「思考」だけがグローバル人材に求められる能力ではなく、「感情」も人間関係を構築するための能力です。心を開いて自分の心を他者の心につなぎ、「敵」と呼ばれる者とでさえ人間関係を構築していくことができるのが「連帯する力」と述べられています。

極端な例ではあるのですが、外国人テロリストから人質を解放した際の交渉の実例を同書では紹介しています。イタリア人国連外交官ジャンドメニコ・ピッコ氏がどのように人質解放の交渉に臨んだのかというエピソードです。

◆人質解放の交渉のため、テロリストの潜伏場所に単身乗り込む

ピッコ氏は1991年、ベイルートにあるテロリストの潜伏場所にやって来るはめになります。国連事務総長から人質の交渉を要請されたからです。

真夜中にイスラム過激派の犯人グループがピッコ氏を迎えに来ます。ピッコ氏は目隠しをされ、武装した拉致犯二人に両腕をつかまれ、犯人グループのリーダーがピッコ氏を尋問しようと待つ部屋に連れていかれます。

ようやく目隠しを外れされると、ピッコ氏はがっしりとした体格で、スキーマスクをかぶった、30代後半と思しき黒髪のアラブ人男性と対面していました。スキーマスクに細く開いた切れ目の奥に見えたのは、拉致犯の疑わしきげな黒い瞳だけでした。

しばらく沈黙が続いた後、ピッコ氏は口を開きました。「あなたは私のことを多少なりとも知っているかもしれないが、私はあなたのことを何も知らない」

スキーマスクをかぶったリーダーがピッコ氏に尋ねます。
「何が知りたい?」

ピッコ氏は再び口を開く前に、しばしためらいました。ピッコ氏が選ぶ言葉が人質の運命を、そして、おそらくはピッコ氏自身の運命をも左右することがわかっていたからです。

ピッコ氏が置かれた状況を、みなさんも想像してみてください。みなさんがこの国連外交官ピッコ氏だったとして、「過激派」が拉致した人質を救出するために中東の国へ国連から派遣されたとしたら、どうするでしょうか。迎えに来た車には、機関銃で武装した4人の男たちが乗っていました。目隠しをされ、どこだかわからない場所に連れて行かれます。みなさんは一人ぼっちで全く無防備です。みなさんが連れて行かれたた潜伏場所がどこなのか、国連の同僚たちは誰も知りません。目隠しが外されると、機関銃で武装した覆面姿の男たちに取り囲まれています。身を守る術を一切持たず、「夜明けまで生きていることができるのだろうか」とさえ思わざるを得ません。愛する家族の顔が頭をよぎり、「もう二度と会えないかもしれない」という恐怖に襲われます。

ピッコ氏が直面していた難題は、単なる「コミュニケーション」の問題ではありませんでした。ピッコ氏に突きつけられた究極の課題は、複数の個人またはグループがより効果的に協働できるよう、間に横たわる溝に信頼という橋を架けることあるのだと同書は記述しています。ピッコ氏が置かれたのが究極の状況だったからこそ、境界線を越えて連帯することの難しさが明確になるのだと同書は言います。みなさんがもし同じ状況に置かれたら、どうするでしょうか。

スキーマスクをかぶった男は、「自分について何が知りたいのか?」と質問することを許してくれました。それに対して、みなさんでしたら、どう応えるでしょうか。彼の怒りや疑念にどう対処すればよいのか、あるいは自分自身の恐怖や疑念にはどう対処すればよいのか…様々なことが頭の中で渦巻くかと思います。口から出る言葉一つに自分や他の人間の生命がかかっている過酷な状況下で、ピッコ氏が発した言葉は以下のようなものでした。

◆テロリストとの共通点を探すところから始めた

「子供はいるのか」。ピッコ氏は聞いてみます。
「ああ」。男は答えます。
「私にもいる」。ピッコ氏は言います。
「では、あなたがこういうことをしているのは、子供たちにより良い世界を残したいからなのか?」
「当然だ」
「なるほど。私もそうなんだ。ということは、私たちはどちらも父親で、子供たちにより良い世界を残したいと思っていることになる」

スキーマスクをかぶった男が静かに動きます。ピッコ氏のほうへ身を乗り出して、まっすぐにピッコ氏の顔を見つめます。「あんたは、いったいどこから来たんだ?」。男は強い好奇心を示し、ピッコ氏に聞きます。

この事件から何年も経た後、この生死を分ける会話を思い起こしながら、最初のやりとりで「スキーマスクをかぶった男は意表を突かれたのだ」とピッコ氏は語ったと言います。ピッコ氏は適切な言葉を適切なタイミングで選び取り、相手との関係を築きました。一言で言えば、二人は“連帯”したのだったと同書は言います。

絶妙な話術で、ピッコ氏は拉致犯と共有できる関係を構築していきました。根深い相違点や相反する政治的見解をすべて乗り越え、ピッコ氏と拉致犯とは少なくとも一つの点において共通のアイデンティティを見い出しました。二人とも子供思いの父親だったのです。「テロリスト」と「外交官」という、表面的なアイデンティティによって築かれた壁の内側に閉じこもっているほうが簡単だったはずですが、二人はその狭く孤立した小部屋から出てきて、共通点を見い出しました。恐怖に駆られて行動するのではなく、好奇心から連帯を築いたのでした。それが二人の間の空気を変えてくれました。交渉成功への扉を開いたのは、あの最初のわずかなやり取りで、後に人質の解放へとつながったと信じているとピッコ氏は振り返ります。

◆世界企業は、自分たちと異なる人々を敵ではなく顧客にするケーススタディを研究

連帯には、必ず尊敬が伴います。世界を股にかけて活動する有能や外交官や企業幹部は、文化的差異を乗り越えて、人々を尊敬する術を学んでいます。扇動的な政治家ならば、恐怖と憎悪を煽り立てる人もいますが、実業家はそうはいきません。成功するためには絶対に連帯しなければなりません。民間企業のCEOは、自分たちと異なる人々を敵ではなく顧客にすることで成功するからです。世界の一流企業が政府を凌駕する手法で境界線を越え、連帯しているのも当然の話ですが、企業経営者は道義だけでなく、利益という動機にも突き動かされ、「人との連帯」という難問を解決しています。世界中の顧客と連帯する手法を研究するべく、いかにして境界線を越えて連帯するかについてのケーススタディを集めていると同書では記述しています。

いかがでしたでしょうか。
表面的に敵対したアイデンティティの壁の内側から“共通点”を探る――今回のエピソードを基点に、異文化間、同文化間でのビジネスや日常を振り返ったとき、みなさんは「敵」と呼ばれる人と人間関係を構築した経験がありますか? 


◆ソース◆
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『世界で生きる力』(英治出版)
https://www.amazon.co.jp/dp/4862760902
pp.28,142‐145,170
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【記事提供元】実践ビジネス英語講座-PEGL[ペグル]-
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