今号のメールマガジンは米国の19世紀中頃の西部開拓史に根ざす、米国人のビジネススタイルについてです。書籍『完璧すぎる日本』(IBCパブリッシング)から紹介します。
著者の山久瀬 洋二氏によると、西部開拓史時代の伝統が、現在のビジネス文化にもしっかりと影響を与えているのだと言います。コンセンサスよりも自らがイニシアティブをとって決断(決裁)し、その後、試行錯誤の中で調整を繰り返しながら臨機応変に目的を達成しようというのが米国のビジネススタイルですが、それには由来があるのだという歴史的な背景を同書から紹介します。
◆オレゴントレイル=19世紀、イチかバチか、西部を目指す米大陸横断の旅
19世紀中頃、米国政府は、太平洋に面したオレゴン(当時は現在のオレゴン州と北隣のワシントン州とを合わせた広大な地域を「オレゴン」と呼んでいました)への入植を奨励していました。そして、入植者には既婚者の場合、1.6km四方の土地の所有を認めていました。
オレゴンは、土地の肥えた、農業や牧畜に適した土地でした。
こうした政府のキャンペーンに従って、数えきれない人々が東海岸から、あるいは欧州から東海岸にわたってくるや、西部を目指しました。
大陸横断の旅は半年以上を要しました。途中、ネイティブ・インディアンの襲撃を受けることもあります。
ロッキー山脈の高山を何とか越えた後は、広大な砂漠を横断しなければなりません。そして、その向こうには、西海岸の前に立ちはだかるシエラネバダ山脈の高峰がそびえています。
実際、旅立った者の10人に1人の割合で途中、命を落としたというほどに、ハイリスク・ハイリターンの旅でした。そんなリスクにチャレンジしてまで、彼らがオレゴンを目指したのは、肥沃な土地を所有できるという機会です。
◆コンセンサスよりも臨機応変が米国のビジネススタイル
「オレゴンに行こう」と決裁する時点ではまだ、彼らは大まかな行程表と、政府が提供した情報や町で仕入れた噂しか持っていません。しかも、オレゴンで手に入れる豊かな生活のためには、名も知らない多様な移民たちと一緒に、春には出発しなければなりません。彼らは、道中の身の安全のために、見知らぬ人々と、即席のチームを作って旅立ったのです。
ビジネスにおいても、決裁に至る最も重要なポイントは、プロジェクトを達成することによるビジネスチャンスがしっかり見えたときなので、オレゴントレイルと一緒ですね。
途中のさまざまなリスクは予想ができ、そのための準備はします。武器や食料を買い込み、十分な情報はないにせよ、簡便な地図も手に入れたかもしれません。それでも、完璧な準備は不可能です。
予期しなかった危機が襲ってきます。その時人々は、それぞれがイニシアティブを発揮して、その場で素早く問題解決します。それを怠れば予定が遅れ、シエラネバダ山脈の中で冬を迎えてしまいます。それは死に直面するリスクです。食料は、全行程分を出発地で調達できませんので、途中でバッファローの群れが草原に現れた場合には、予定を変更して狩猟をします。
米国人はビジネスを進める中でバッファローの群れに相当する便益があれば、決裁内容を変更していくことも多々あります。
予定変更は悪い事ばかりでなく、それが合理的に説明できるのであれば、変化に柔軟であるべきという考え方です。この柔軟性も、米国のビジネス文化の大きな特徴です。
日本の場合、決裁までにコンセンサスを固め、多大なエネルギーを費やして準備をします。決裁のあと実践の段階で「変化を」と言われても、急にハンドルを切ることは不可能です。オレゴントレイルをするときにその行程をすべて調査し、一緒に旅する人たちとコンセンサスをとってから出発する日本型の決裁は、米国には馴染まないというわけです。
「決裁」と一言で言っても、日本人と米国人とでは、奥にある意図や意味合いが異なるのです。決裁したあとで、「状況が変わったから」と米国人が言うと、「そんな無責任な、今更どうしろって言うんだい」と日本人が当惑するケースを山久瀬氏は何度も見てきていると言います。みなさんにも心当たりがあるかもしれませんね。
米国人からすれば、変化への対応は迅速でなければなりません。放っておくと、バッファローは逃げてしまいます。
未来への戦略を語り合う時、言葉も通じにくい移民同士は、強いアクセントで、大きな声と手振りで、できるだけシンプルにメッセージを交換します。確信していることがあれば、強い言葉で、相手の目を
しっかり見て説得しなければ意思は通じません。未来に向けて動こうとしているとき、困難なことを強調するのではなく、いかに困難を克服するかというスタンスで、物事を進めない限り、人はついてこないということを知っているからです。
誰もが相手の思惑がわからないままに旅を続けるうちに、旅の中でだんだんと信頼関係が育成されます。根回しを先にするのではなく、決裁のあとで、共に業務をする中で、信頼関係は築かれていくというわけです。
日本人から見ると、行き当たりばったりで無責任にすら見える米国人のビジネスへの取り組み方は、こうした文化背景に根ざしています。米国流の方式は、その都度柔軟に対応していくという意味においては、リスクをその場で回避でき、戦略そのものも一度決めたことだけに固執しないという強みを持っているわけで、米国人はそれを「適当」だとは思っていないのです。オレゴントレイルを全うし、開拓地で生活を始めることが、米国人のゴールとするところです。
いかがでしたでしょうか。
日本的なビジネススタイルは米国とは対象的で、以下のことが刷り込まれているように感じます。
・安定は良い事
・安易に動かず、じっくりと腰を据えることが良い事
・過去をしっかり検証して前に進む事が良い事
みなさんは、米国と日本のビジネススタイルの差を感じることがあるでしょうか。あるとすればどのような差を感じるでしょうか。
◆ソース◆
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『完璧すぎる日本人』(IBCパブリッシング)
https://www.amazon.co.jp/dp/4794601050/
pp.66-82