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今号のメルマガは、異文化経営では特にコミュニケーションがきわめて重要だという話です。たとえ総論としては理解しているつもりでも、実践するには具体的にどういう点に留意しなければならないのか、書籍『ダイバーシティ・マネジメントと異文化経営』(新評論)から紹介します。

◆三つの原則に基づいて行動することが、異文化経営の実践に求められる異なる価値観の人々の異文化シナジーを求める異文化経営においては、コミュニケーションがきわめて重要です。自分の言葉で語ること、組織の人間としてよりも個人として相手としっかり対峙することが求められます。そのためには、いかに「人間として信頼されるか」が肝要です。

同時に相手を知ることも重要で、そこでは自分の文化(高コンテクスト)から異なる文化(低コンテクスト)の環境へ移行するのだという認識を持たなければなりません。意見の相違が発生するときもあるわけですが、「自分が正しく、相手が間違っている」という判断を短絡的にすぐに下してしまうことのないように自分を律することが大切になります。

同書は、以下の三つの原則に基づいて行動することが、異文化経営の実践に求められると言います。
(1)Respect(敬意をもって相手に接する)
(2)Integrity(人として誠実である)
(3)Confidence(信念を持って言うべきことははっきり言う)

海外のみならず、国内の職場においても、自分と異なる価値観の人と仕事をすることが増えてきています。これもまた、異文化経営にほかなりません。したがって、この能力を身に着けることは、労働力がますます多様化する今後の企業マネジメント全般において必須になると考えられます。以下で、具体的な例をコミュニケーションの視点から紹介します。

◆コミュニケーションは“Y=X”になるとは限らず、“Y=aX”になるという前提で

今日のビジネス・リーダーは、何よりもまず、良きコミュニケーターでなければなりません。良きコミュニケーターの条件は、自己アイデンティティが確立されていることと、多様性を受け入れるマインドセットが醸成されていることです。

この多様性の存在を念頭に入れるとするならば、コミュニケーションを以下のような数式で表すことができるのだと同書では説明しています。

Y=aX

Xは、ビジネス・リーダー(上司)の知識や情報であり、ビジネス・リーダー(上司)がコミュニケーションする相手(部下)に伝えたい話の内容です。

Yは、コミュニケーションの結果、相手(部下)が理解して吸収したものです。

ビジネス・リーダー(上司)は「Y=X」のつもりでコミュニケーションをとるわけですが、必ずしも「“Y=X”になるとは限らない」というところがミソです。

ビジネス・リーダー(上司)がコミュニケーションをとる相手(部下)の人数を複数いるとしましょう。Xは同じ定数なわけです。Xが同じ(定数)でも、聞く相手側(部下)一人ひとりが判断する尺度や心の状況、関心の程度によって変数“a”が異なってくるという考えで、相手(部下)側の文化や人によって、“aX”はさまざまに異なってきます。つまり、相手(部下)が理解して吸収したもの“Y”が異なってくるというわけです。

このことを理解すれば、「相手(部下)は、必ずしもビジネス・リーダー(上司)の言ったことをそのまま理解するとは限らない」という想定のうえで、できるだけ誤解を避けるように、丁寧にかつ明確にコミュニケーションを行っていくことが大切となります。

◆コミュニケーションでは、ハードスキルだけでなくソフトスキルも重要

また、このY=aXの変数“a”は、相手(部下)側の個々人のやる気やモチベーションとして捉えることもできます。ここでは、ビジネス・リーダー(上司)は部下に対して知識や情報であるXを与えるだけでなく、一人ひとりの社員の動機と意欲である“a”を高めるように仕事の配分を工夫することも重要となります。本人の意欲的な行動に対して細やかにプラスのフィードバックを行い、より良い意見や行動を引き出せるように働きかけるということです。

さらにこの数式を応用すると、対話者相互の間で、総合的な「人間力」を磨くことにもつながります。Y=aXでは変数は“a”一つでした。

Y=abX

変数は聞き手側の“a”だけでなく話者側の「人間力」“b”もあるということです。異文化環境において身を置いて力を発揮するには、ロジカル・シンキングやプレゼンテーションのようないわゆるハードスキルベースのコンテンツのみならず、「自分とは何か」「人間とは何か」「人はどういきるべきか」などの深いテーマを自分の言葉で話すことができるための、いわゆるソフトスキルの修練も必要です。

コミュニケーションの結果、「状況はよく理解できてわかった。それで、あなたはどう考えるのか」と問われたとき、“why”を明確に説明できることが「人間力」の領域では求められます。とりわけ日本人の場合は、自分の価値観を自分の言葉できちんと説明できることが必要だと同書は述べています。

まさに、その人の生き方や価値観が関わっており、「人間力」が問われるところです。異なる価値観を持った人と人とが対峙する異文化経営においては、この点が特に重要なのだと著者は強調します。

いかがでしたでしょうか。
「ハードスキルだけでなく、ソフトスキル(人間力)の修練も必要」という同書の指摘、厳しいですが、的を射ており、「はっ」と気づかされるところがありますよね。英語力だけを磨いてもビジネスで結果は出せないということなのでしょう。

PEGL[ペグル]の軸となっている「仕事で結果を出す力」も、「英語だけを学んでもビジネスで結果は出せない」と主張する監修者・大前研一の意向から来ています。みなさんはどのようにソフトスキル(人間力)を修練していますか。


◆ソース◆
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『ダイバーシティ・マネジメントと異文化経営』(新評論)
https://www.amazon.co.jp/dp/4794808658
pp.163‐165
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【記事提供元】実践ビジネス英語講座-PEGL[ペグル]-
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