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今号のメルマガは、経営トップの意思決定を「見て盗む」ためのヒントについてです。書籍『アジアで働くことになった君へ』(ギャンビット)から、紹介します。

著者の田中秋人氏は、アジア各国でイオンの経営トップを務めました。が、本社に勤務していた時代には、イオンの前身となるジャスコの副社長を務めていた故・林信太朗氏の秘書を約8年務めていました。副社長のように組織を束ねるトップになる人というのは、常に「判断力」を問われます。判断力とは何かというと、先行きが不透明で正確に予測ができない問題に対して、どの方向に進むべきかを適切に判断できる能力だと田中氏は言います。この判断力はトップの立場にならないと磨くことがきません。そのため、若いうちにこの能力を身に着けることは極めて難しいと田中氏は言います。

では、どのように田中氏はトレーニングを重ねてきたのでしょうか。その詳細を同書の中で明かしています。組織の上層部にいる人物の元には、毎日膨大な量の稟議書や提案書といった判断を求める書類が集まってきます。その内容を1枚1枚チェックしながら、「YES」「NO」の決済を行うというのが林元副社長の最重要業務の一つであり、同氏の秘書だった林氏は、それを間近で観察できるポジションにいたわけです。

そこで、当時の田中氏は、ボスである林副社長が席を外している間にそれらの書類に目を通し、自分の頭の中で「YES」「NO」のシミュレーションを行ってから、元の場所に戻しておくというトレーニングを毎日のように繰り返していたと言います。

その際、実際にボスである林副社長がその書類を手に取り、「YES」「NO」のどちらの判断をするか確認していたわけです。

最初の1年は、田中氏の判断は半分ぐらいしか当たっていませんでしたが、3年目になると、精度が高まり、かなりの確率でボスである林副社長の判断をトレースすることができるようになったと言います。この経験が、その後、アジア各国で田中氏が経営トップを務めるうえで、判断力の土台として大いに役立つことになったと田中氏は振り返ります。

副社長の元に毎日集まる膨大な量の稟議書や提案書に目を通せるポジションに身を置くという経験は、特殊なケースですが、組織における意思決定者のジャッジとは、こうした日々の積み重ねによって研ぎ澄まされることを田中氏は実感しています。

ボスである林副社長のジャッジを簡単に真似できるようにはなりませんが、だからこそ、ボスの判断をぼーっと待つのではなく、意識的に真似しながら少しずつ経験を積むべきだと田中氏は言います。どんな立場でも、身近なボスの判断をシミュレートし、その意思決定プロセスを辿る訓練の研鑽を田中氏はすすめます。

そうやって、リーダーになる前からリーダーの仕事を覚えていき、マネージャーになる前からマネージャーとして動いておく経験が、いざチャンスが巡ってきたときに必ずや生きるのだと田中氏は言います。

いかがでしたでしょうか。
みなさんは、いつの日かチャンスが巡って来る時に備えて、経営トップとしての意思決定力を養うトレーニングを積んでいますか?


◆ソース◆
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『アジアで働くことになった君へ』(ギャンビット)
https://www.amazon.co.jp/dp/4907462158/
pp.49-52
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